2024.3.30 Victor Erice 二作品

勧めてもらったVictor Ericeの過去作を観るため、大原から鎌倉へ帰る途中、少し足を伸ばして新宿へ。光り輝くルイヴィトンの大きな店と同じ通りの、細長いビルの4.5階の小さな映画館へ入り込む。

 

ミツバチのささやき

アメリカの軍用車のような大きくて不恰好な車が砂埃をあげて村に入ってくる。子供たちが「映画がきた!」と声をあげて群がる。石造りの公民館に機材が持ち込まれ、一人一つの椅子を持って村人が映画を見に集まる。その中の一人の少女を中心として、その姉、そしてその家族を巻き込んだ不思議な物語が展開される。

 

「エル・スール」

風変わりな父親とその娘、そして母親。夜が明ける頃、父を探す母の声で目が覚める。上体を起こして、枕の下に置かれた父の振り子を手にして、一粒の涙が娘の目から溢れる。そこから家族の回想が始まる。

 

立て続けに二作品を観て、人の眼はなぜこれほどに色を見分けるか、という疑問に対する一つの回答、「他人の顔色を見るために人間の眼は発達した」というマーク・チャンギジーの仮説(参考 https://gendai.media/articles/-/70880 )を思い出した。

他人の顔色をよく見る機会は、なかなか、ない。あんまり人をジロジロ見ていると、変な人と思われる。しかし映画ならその心配はない。映画の筋に疑問を抱く少女の顔も、誰にも届かないであろう手紙を書く女性の顔も、娘が自身の断片を知っていたことに驚く男の顔も、じっと眺めることができる。よくよく人の顔を眺められる。それだけでも映画というのはいいものだと思うし、そういう何の変哲もない、それでいて貴重な、うつくしい姿を留めておくことの素晴らしさ(それは人だけでなく、風景の姿も含めて)、それを感じられることだけでもVictor Ericeの映像作品には唯一無二の存在感があるのだと思った。