知る日々の日記

日記の再録です

2024.4.6

一昨日、鎌倉と東京を電車で往復する生活に一区切りが付いた。これからしばらくは千葉の大原という土地で暮らすことになる。 三年前、鎌倉から美深に引っ越した時も不安はあった。しかし、それを上回る期待があった。これから住む場所にはどんな人がいるのか…

2024.3.30 Victor Erice 二作品

勧めてもらったVictor Ericeの過去作を観るため、大原から鎌倉へ帰る途中、少し足を伸ばして新宿へ。光り輝くルイヴィトンの大きな店と同じ通りの、細長いビルの4.5階の小さな映画館へ入り込む。 「ミツバチのささやき」 アメリカの軍用車のような大きくて不…

居場所をくれたひとたち

好きなケーキ屋さんのインスタを眺めていて、頻繁に通っていた頃によく食べたレモンチーズパイやらサヴァランやら、その時に素敵な時間をくれた、今はもう別の場所で生きている店員さんの顔、そういったものを眺めるうちに、自分に居場所をくれたひとたちの…

2024.2.12 「哀れなるものたち」

(本編の内容を含みます) 「哀れなるものたち」の鑑賞後にネットの評価を眺めていると「どこにも共感できるところがなかった」と書いているものがあって、その人にとっては残念な体験だったのかもしれないけれど、ランティモスの描く映画世界の非現実的で非倫…

2024.2.11 Bas Devosの二作品鑑賞など

ポケットのスマホが揺れて、「結婚式で酒飲みすぎてそっち遊び行けなさそう、ごめん」と友人から連絡が入った。蔦屋書店の小さな椅子に座り、「結婚式、そういうものすぎる」「また気が向いたら遊び来て!」と返信を打って、明日の予定が空いたな、と蔦屋の…

2024.1.28 仕事と生活

2024.1.28 私が(仕事と生活が一体になった生き方)という言葉を使う時に浮かぶイメージは、自分の心の赴くまま、強いられることなく"ついつい"やってしまうことが、他者から見ると仕事のレベルになっている、という幸福な姿として描かれるのだけど、それって…

2024.1.14キュビズム展

国立西洋美術館で開催中のキュビズム展を覗いてみる。キュビズムという言葉と、割れた鏡に映る何者かを模写したようなイメージだけが手掛かりという、なんとも心許ない状況だったけれど、運動の出発点としてセザンヌも展示されていることを知って足を運ぶ。…

くらげのこころ

僕のこころは くらげのこころ 海に溶け出す とろとろのこころ 君のこころは アメフラシのこころ 海に溶け出す 鮮やかなこころ とろとろのこころと 鮮やかなこころが 海水とまじって すこしにごった かなしいね 僕らのこころ このままどこかへ 流れるみたい …

「海は広いし、深いよ」

山へ行こうと思ったのに、海に来てしまった。ここは熱い海、熱海。 友人と朝の電車に乗り、缶ビールを開けて歓談。しばらくすると「次は終点、熱海、熱海」とのアナウンスが聞こえてくる。あれ?小田原は? 終点に向かう車窓から大海原を眺めていると、近海…

「亡くなったって、今朝」 「そう、もう結構なトシだったからね」 「聞いた話だけど、昔いた施設ではいろいろあったみたいで、もうずいぶんな歳だった時にここに来て、体はひょろっとしていたし、毛も所々抜けていたけど、たぶん水が合ったのね、数ヶ月で体…

風はこの肌に。線は柱に。

静かな家の中庭で、しだれ桜が揺れている。緑の葉がさらさら揺れて、それを眺めている私の肌にも風が当たる。この時、間違いなく私は生きていると思う。いま、この瞬間、生きている。他の誰でもない私が、いま、生きている。その実感がある。 実家の柱には私…

精神と現実。生活と創作。

精神の発展・跳躍を現実で調整することが生活。 精神の発展・跳躍で現実を調整することが創作。 生活は絶え間ない自らの投棄がある。 精神はいかなる時も、発展・跳躍することが役割。 現実は他者の存在なしにはあり得ない。 創作は他者の訪れを待つ。 生活…

【短篇】過去の住む長屋

喫茶店の横道を一本入ると、どん詰まりに錆び付いたトタン屋根の長屋がある。仕事に行き詰まったとき、人間関係に躓いたとき、そもそもの仕事も人間関係もなくなったとき、決まってこの長屋に顔を出す。隙間風どころでは済まなそうな戸の前で「御免。」と声…

【短篇】タロの塚

タロはかわいいやつだった。いつも私の後ろをついてきて、甘えた声で鳴いた。私が中学生になった頃に飼い始めたから、だいたい十年くらいうちにいたことになる。 ある雨の日、軒下にずぶ濡れになった大きな毛玉があると思ったら尾っぽがぴょんと生えて、よく…

【短篇】草原とその表情

山の麓の開けたところに、穏やかな小川がひとつ流れている。その小川は草原の中を緩やかにカーブしながら流れ、傍らに小さな掘っ立て小屋がひとつ、申し訳なさそうに佇んでいる。小屋の隣には、何のための動力か、小屋より少し背丈の低い木製の水車が、小川…

【短篇】部屋

この部屋には、入り口に相当する通路も、出口に見合う扉もなく、真ん中に小さな机と椅子が一組置かれてあるのみ、見渡す限り、意思の疎通が取れそうな相手もいない。最初に目覚めたとき、私は一人で座っていた。目の前には小さな机とノート、そしてペン。目…

【短篇】月は寂しいか

序 「 そこに、星の からだがある。 そこに、山の からだがある。 そこに、君の からだがある。 ここに、私の からだがある。 ここに、私の こころがある。 そこに、君の こころがある? どこに、山の こころがある? どこに、星の こころがある? 」 ある村…

金魚が死んでしまわぬように

社員寮のようなところに住んでいる。 夏場、美深に農業手伝いで来る人たちも、この家に泊まる。去年はチリ人が2人、イングランド人が1人、日本人3人、計6人の大所帯だった。 今年は日本人だけの生活だったけど、初対面の人たちと一緒に過ごすのはコツがいる…

朝のバル

19歳の頃、サッカーをするためイタリアに3ヶ月住んでいたことがあった。イタリア人に混ざって彼らの生活に馴染もうとする日々で、なかでも楽しかったのは朝のカフェタイムだった。住んでいる場所から歩いてすぐのバル(彼らはカフェをバルと呼ぶ)に入って、カ…

少しずつ、先へ

できる限り自分を軽くしておくことがこれまでの私を助けてくれた。冬服を仕舞って春服に着替えるように、付き合う人を変え、働く場所を変えた。また冬が来たら取り出せるよう、脱いだ服は丁寧に仕舞って、心が動けば少し早くても春服に着替えて、自ら動いて…

虚子に対する雑記録②

仕事に変化があったこともあり、久しぶりの更新です。 今回は三句取り上げます。まず一句目。 「縄朽ちて水鶏叩けば開く戸なり」 水鶏と書いて「くいな」と読みます。水辺にいる小さな鳥で、鳴き声がコンコンと戸を叩くように聞こえることから「くいなたたく…

「虚子に対する雑記録」 序・①

私が初めて高浜虚子の言葉に触れたのは、俳句ではなく俳談でした。鎌倉・佐助の古本屋で岩波文庫の「俳談」を見つけ、何気なくパラパラと捲ってみると、「本ものの虚子で推し通す」とか、「自分の主観を働かせすぎる」とか、「どの時代も貴い」「流行」「弟…

美深へ

2021.5.6 松山農場の柳生さんに電話をかけた。手が離せないから1時間後にかけ直す、と言われて、階段だけが残された空き地で本を読みながら折り返しを待つ。 電話がかかってきて少し話すうち、あなたのことを覚えていますよ、と言われる。あの時は酒屋の社長…

春先様々鑑賞記

2021.4.7 気になっていた海街diaryを昨晩やっと見る。知っている土地がめちゃくちゃにツギハギされているので、「その家を出た先がなぜあの通りに…?」「その角を曲がった先がなぜ海なの…?」「そこスズメバチの巣があるから危ないよ…!」などと、話の筋に関…

簡易見聞録 映画三作 「街のあかり」「AKIRA」「春江水暖」

2021.2.15 「街のあかり」「AKIRA」を見る。街のあかりはアキ・カウリスマキの敗者三部作の内の一作。「過去のない男」の時は自分に重なるところがあってよかったのだけど、今作ではあまり共感するところなく。 作品を自分の物語と感じる時が少なくなってき…

読書感想短文 小林と正宗

2021.1月頃 小林秀雄対話集に収録されている、正宗白鳥との「大作家論」を読む。なんだか笑える。小林秀雄の話すのには「くすぐるように褒める」ところがある。それはどんなことを指して言うのか、引用してみる。 " 正宗白鳥(以下、正) 小林君は画を…僕はよ…

挨拶

書き溜めている日記を、出来るだけ読みやすく直しながら再録したいと思った。 その時々の気づきを中心にした部分には、それなりにどなたかが興味を持ってくださるのではないかと期待している。せっかく書くので読んでもらいたいし、読まれるための文章上の努…